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東京高等裁判所 昭和56年(ツ)21号 判決

上告人

ナミコ・サイトウ・テイラー

(旧姓 斉藤なみ子)

右訴訟代理人

寺沢平八郎

被上告人

武蔵証券株式会社

右代表者

清水達也

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由について

上告理由は、要するに、「商法二二九条、小切手法二一条の規定によつていわゆる善意取得者が取得できるのは株券のみであつて株主権は取得できない。仮に株主権を取得するものとしても、株主名簿に記載されないうちに除権判決があればその権利を喪失する。これに反し、公示催告の申立人は除権判決により喪失株券を取得し得る法律上の地位に立つので、その効果として株主権を回復する。したがつて、本件では上告人が実質上の株主であり、被上告人は株主権を有しない。叙上と異なる原審の判断は上告理由書掲記の法条違背の違法がある。」というのである。

しかし、株券は株主権を表彰する有価証券であり、株主権の譲渡には必ず株券の交付必要とする(商法二〇五条一項)ことに鑑みると、商法二二九条、小切手法二一条により株券を善意取得した者はそれに表彰される株主権を取得するもの判旨と解すべきである。また、喪失した株券に関する除権判決は、将来に向つてその対象たる株券を無効ならしめ、公示催告申立人は株券を所持するのと同一の地位を回復するが、同人が実質上の株主であることを確定する効果を有するものではなく(最高裁判所第二小法廷昭和二九年二月一九日判決、民集八巻二号五二三頁参照)、除権判決前に株券を善意取得した者の有する株式会社の構成員としての資格における実質的権利に何ら影響を及ぼさないから、除権判決前に株券を善意取得した者及びその者から株券を譲り受けた者は、公示催告申立人に対しても自己が右株券に表彰される株主権を有することを主張することができるものと解すべきである。けだし、除権判決により善意取得者の権利が消滅し、公示催告申立人が株主権を回復すると解することは、右に述べた除権判決の効果に背馳するばかりでなく、かくては株式の流通を妨げ、取引の安全を著しく阻害する結果となるからである。そして、この理は、除権判決前の株券の善意取得者及びその者から株券を譲り受けた者が株主権を取得したにも拘らず未だ株主名簿に記載されない間に除権判決がなされた場合においても、何ら異なるものではなく、このことは、株主名簿の記載を単に会社に対する対抗要件にすぎないものとし、株主権取得の要件とはしていない商法二〇六条の趣旨に照らし明らかなところである。

原審が確定した事実によれば、(1)被上告人は、昭和四八年二月一五日訴外新興証券株式会社から同社が被上告人の委託に基づいて東京証券取引所において買付けた訴外池貝鉄工株式会社の一〇〇〇株券(以下本件株券という)の交付を受けてこれを善意取得し、(2)次いで、昭和四九年四月八日ころ新興証券に対し本件株券の売却を委託し、同会社において同日ころこれを訴外三洋証券株式会社に売り渡した、(3)ところが、他方、上告人は盗難を理由として昭和四八年一一月一五日本件株券を含む池貝鉄工の株券二〇〇〇株につき公示催告の申立をなし、昭和四九年九月一二日に除権判決を得、これに基づき、池貝鉄工から新たに一〇〇〇株券二枚の再発行を受け、(4)除権判決と同日である昭和四九年九月一二日、三洋証券が池貝鉄工の株式事務を処理する訴外中央信託銀行に対し本件株券の名義書換を請求したが、同銀行は除権判決が確定していることを理由に、これを拒絶したので、被上告人は、同年一〇月一五日ころ、東京証券業協会昭和二四年一二月一〇日統一慣習規則の二「店頭売買事故株券及び権利の引渡未済の処理等に関する規則」三条に従い、池貝鉄工の他の一〇〇〇株券を新興証券を通じて三洋証券に交付し本件株券の返還を受けた、というのであり、右事実関係のもとにおいては、除権判決は右判決前に本件株券を善意取得した者の実質的権利に何ら影響を及ぼさないとの解釈に基づき、被上告人が三洋証券に代りの株券を交付して決済した以上、三洋証券の有した株主権を取得し、右権利に基づき上告人に対し再発行された前記株券のいずれか一枚の引渡を求めることができるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、右判断に所論の違法はない。

論旨は、独自の見解に基づいて原審の判断を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

上告代理人寺沢平八郎の上告理由〈省略〉

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